真空管試験機、真空管試験器 (Tube Tester、Valve tester) のお話し
真空管の製造メーカは、色々な種類の真空管の規格(特性)を決めて製造しています。
真空管の規格は、汎用品種(ラジオ、テレビ、増幅器(アンプ)などに利用される球)については、各国(日本、米国、英国など)毎に統一された品種名と対応する規格が定められていました。戦前の日本は、ほぼ米国に倣った(同様の)品種名と規格で真空管を製造しています。
真空管試験機はどのような場面で必要となるのか。
真空管の製造メーカは、規格に適合する真空管を出荷(市販)していますので、いわゆる初期不良も極めて稀です。真空管は保存しているだけならば、その規格(特性)が変化(劣化も、向上も)することは先ずありません。
しかし、規格というものには、ある程度の巾があります。
高級なアンプ類、エンコーダ、デコーダや高精度の通信機器、計測器に利用する真空管では、その球の特性をそろえることが重要な場合があります。
また、真空管は他の電気製品と同様に使用時間に比例して、その規格(特性)が変化します。この変化は、かなりゆっくりですが、規格以上の負荷を加えた場合などは急速に劣化する、あるいは破損する場合もあります。
そこで、真空管試験機の出番です。
ところで、真空管試験機は各種の真空管の特性を試験することを目的とした計測器です。
真空管の特性を「測定する」とは言わずに「試験する」と言うのは、一般的な(市販されている)真空管試験機は、メーカの設備ではありませんので、真空管の規格、特性の全てを測定することは出来ません。
そこで、通常は、真空管試験機、Tube Testerと呼んでいます。
真空管試験機の種類
1.フィラメント(ヒーター)チェッカー
真空管の劣化で一番多いのは、電球と同じようにフィラメントが切れる(断線する)現象ですので、これをチェックするためのものです。
ラジオ、テレビの保守要員が利用していました。
フィラメント(ヒーター)チェッカーの例
2.エミッション計測型の真空管試験機
エミッションとは、真空管の陰極(ヒーターあるいはカソード)から放射される空間電流のことです。不思議なことに訳語がありません。
真空管が使えるかどうか(良品か不良品か)の判定の第一はフィラメント(ヒーター)が断線していないことです。
判定の第二は、エミッションが充分にあるかどうかです。
エミッション計測型の真空管試験機はこの機能を持つ真空管試験機です。
もちろん、フィラメント(ヒーター)が切れていればエミッションは0です。
真空管の良否判定の第一段階に有用です。
このタイプの真空管試験機は多くの計測器が製造していました。
エミッション計測型の真空管試験機の例
3.相互コンダクタンス(gm)計測型の真空管試験機
真空管の3定数の一つであって極めて重要な相互コンダクタンス(gm)の計測機能のある真空管試験機です。
このタイプが最も多くポピュラーです。
特性の揃った球の選別には、このタイプの真空管試験機が必要です。
最も多く製造されて、今でも最も多く活用されているモデルは、米軍規格の機種の、TV7シリーズです。
第二次大戦中に前線での利用を前提に設計・製造されたもので、頑丈な造りです。
このシリーズには、(子番なし)、(A)、(B)、(C)、(D)の5モデルがあり、少しずつ機能が増えていますが、基本的な設計は同じです。
(C)モデルはカナダ軍用です。
TV7シリーズの例
TV-7シリーズは第二次大戦中に大量に製造されました。
従ってその製造メーカも多くありますが、最も著名なメーカは、Hickokヒーコックです。
このメーカはその他の計測器も製造していましたが、1920年代後半から戦後まで非常に多くの種類の真空管試験機を世に出していました。
今でも、Hickokのファンは世界中に大勢います。そして多くの機種は現役で活躍中です。
その他の真空管試験機の製造業者も沢山ありました。
・Acurate | ・AVO | ・B&K | ・Corner | ・Eico | ・EMC |
・Heath | ・Hickoc | ・Jackson | ・Knight | ・Lafyet | ・Lamp |
・Mercury | ・Neuberger | ・NRI | ・Precise | ・Precisio | ・Precision |
・Seco | ・Sencore | ・Simpson | ・Stark | ・Superior | ・Sylvania |
・Tayler | ・Teck | ・Tektonics | ・Triprett | 等々です。 |
ご興味のある方は、検索サイトで、「tubetester+メーカ名」で検索して見てください。
上記の中で、AVOとTayler は英国のメーカです。AVOは高級な真空管試験機の製造業者として、Hickokに匹敵します。設計内容の非常に高度で高い評価を得ています。もちろん現役で活躍しています。
AVO MKII
AVO 2パネル
Tayler
Tektonics はオシロスコープのトップメーカでしたが、ブラウン管上に真空管の3定数の曲線を表示する真空管試験機を製造していました。現在では極めて入手困難の機種です。
Lafyetは、日本のトリオ・・Kenwood・・からのOEM製品を販売していました。
日本でも真空管試験機は製造されました。
トップメーカは、三田無線・・デリカ・・で最近までオーダー生産していたようで人気があります。その他、国洋電気、三和計測器などでも主に自衛隊用の機種を製造していました。
Hickokの真空管試験機の例
19xd
121
123 155 156
203 209A 532
533
534 536 539A
600
600A
695 750 799
800 870 1234 4956
6000
6000A
真空管試験機の利用法
真空管を用いる機器の利用者は、その機器が故障した場合には、先ず用いられている真空管の良否を判定する必要があります。
そのために、真空管のメーカは各真空管の作動条件(規格)のマニュアルを発行していました。
この規格に適合するかの試験をすることを目的とする計測器が真空管試験機です。
この試験は、主に次の項目です。
- 1.短絡試験
- この試験は真空管内部の電極間のショートを検査します。
- 2.エミッションテスト
- カソード(陰極)からアノード(陽極・・・プレート)へ電流が正常に流れているかを検査します。
- 3.相互コンダクタンス試験
- この試験の目的は、真空管の増幅性能を計測するものです。